研究系及び研究施設の現状 197
大 庭 亨(助手)
*)
A -1)専門領域:生物分子科学
A -2)研究課題:
a) ナノ分子の自己会合をモチーフとする新材料の開発 b)蛋白質表面を認識する分子の合成と応用
c) 光合成メカニズムの分子レベルでの解明
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 地球社会の長期持続的発展を目標とするとき,次世代のデバイスにはナノスケール・分子スケールの高い集積度だ けでなく,省エントロピー性,すなわち必要なときだけ機能し,不要になったら容易に分解・リサイクルできるよう な性質をもたせたい。蛋白質「チューブリン」は自己会合してナノサイズの円筒構造体「微小管」を形成する。チュー ブリン/微小管は温度や阻害剤濃度などに応じて素早く会合・脱会合を繰り返すこともできる。そこで本研究では, チューブリンにエネルギー・物質・情報を伝達・変換・保持する機能分子を複合化し,そうした「電子ブロック」を組み 立てることにより,優れた省エントロピー性をもつインテリジェント・ナノデバイスを構築することを目的とした。 現在までに,蛍光色素や増感剤などを微小管上に集積することにより,太陽電池のはたらきをもつナノデバイスを 構築することができた(投稿中)。また,複数の酵素を微小管上に集積した物質変換ナノデバイスについても検討を 行っている。
b)上記ナノデバイスとの複合を視野に入れて,種々の相互作用により蛋白質の特異的部位に吸着・結合する分子の開 発を行っている。これまでに,ホウレンソウより抽出したクロロフィルaを原料として,正電荷を有するクロロフィ ル類縁体やビオチン部分を有するクロロフィル類縁体を合成した。前者はタバコモザイクウイルスのもつ円筒構造 の内部に特異的に吸着させることができた。また,後者は蛋白質アビジンと特異的に結合させることができた。 c) 光合成の中で中心的役割を果たすクロロフィルは非対称な分子であり,その大きなπ共役系平面には「表」と「裏」が
ある。このπ共役系の中心にあるMgが表裏いずれの側から配位子を近づけ易いのかについては,従来まったく議論 されてこなかった。本研究では,これまでに解明された光合成蛋白質結晶中のクロロフィルの構造調査とMMおよ びMO計算から,配位を受けやすい面を初めて特定した。また,配位を受ける面と生体中でのクロロフィルの機能と の関係についても考察した。
B -1) 学術論文
T. OBA and H. TAMIAKI, “Which Side of the π-Macrocycle Plane of (bacterio)chlorophylls Is Favored for Binding of the Fifth Ligand? ” Photosynth. Res. 74, 1–10 (2002).
B -2) 国際会議のプロシーディングス
T. OBA and H. TAMIAKI, “Coordination chemistry of chlorophylls: Which side of the chlorin macrocycle is favored for the ligand coordination? ” J. Photosci. 9, 362–363 (2002).
198 研究系及び研究施設の現状 B -6) 学会および社会的活動
岡崎高校スーパーサイエンスハイスクール活動支援
C ) 研究活動の課題と展望
A -3)-a)について:微小管を応用した「ナノ太陽電池」により,第一段階をほぼ達成することが出来たと考えている。今後は, 微小管以外のナノ分子(タバコモザイクウイルスや蛋白質アビジンなど)を用いて同様のデバイスを構築することにより,我々 の提案するナノデバイス設計原理の一般化を図りたい。また,研究の第2段階として,特定の位置に特定のナノ分子を簡便 に並べる方法論の開発を目指したい。
A -3)-b)について:蛋白質に吸着・結合できたものの,特にアビジン系ではクロロフィル類縁体とアビジンとの結合定数が小 さいことが現在の問題である。充分な量のクロロフィル類縁体が結合しなかったのは,この化合物の水溶性の低さに原因が あると考え,現在この点を改善した化合物を合成している。
A -3)-c)について:上記A -3)-a)の結果を踏まえ,離合集散型システムの立場から生物のもつ光合成系の特徴を探っていきた い。また,A -3)-b)の結果を用い,光合成モデル系の立場からクロロフィルと蛋白質との間の様々な関係性を調べたいと考え ている。
*)2002 年 4月 1日着任